愛を知る日まで
もうすぐ咲きそうな桜を見ていた
---『一度も笑った顔を見せない子だったからとてもよく覚えていたのよ。』
ずっと後になって、雉さんは再会の時の事をそう教えてくれた。
『それが虐待のせいだったと知った時には、気付いてあげられなかった自分を恥じたけどね。それからもずっと心に引っ掛かっていたのよ。あの子はどうしてるかな。笑う事が出来たのかなって。』
雉さんが感じ続けていた罪悪感は、ながい年月を経て俺を救う事になる。
歯車は、動き出した。---
「あら、じゃあ高校を卒業したら何もしないの?」
雉さんは再会してから用事でうちの施設に来る度にわざわざ俺の元まで来て話をするようになった。
「バイトくらいはするよ。金なきゃ暮らしていけねえだろ。」
お節介だなぁと思いつつ、雉さんの全く敵対心を抱かせない笑顔に俺は段々と警戒せず喋るようになってきた。
「いい若者がバイトだけじゃもったいないわねえ。」
「余計なお世話だよ。」
「そうだ、イイ事思い付いたわ。柊くん、うちにボランティアにいらっしゃいよ。」
「はぁ!?何言ってんだよ!なんで俺が!?」
雉さんの突飛な提案に俺は目を丸くして拒否する。
「何事も経験よ。それにやってみると案外楽しいもんよ。子供の嬉しそうな顔を見るのって何事にも替えがたいんだから。」
「やだってば。なんで俺がガキの面倒なんか見なきゃならねえんだよ。」
不貞腐れてそう答えたものの、
…ガキ相手なら俺にも出来なくないかな。
俺は心の中でそう満更でも無く思っていた。