愛を知る日まで
目が覚めると俺は自室のベッドの上に転がされていた。
酷く痛む頭には乱暴に濡れタオルが乗せられている。
体を起こしたと同時にずり落ちたそれには、真っ赤な血がベッタリと着いていた。
「タオルなんか乗せたって意味ねえだろ。いらねえよ。」
俺はベッドに背を向け机でガリガリと宿題をしてるムカつく背中に向けて言った。
「シーツに血が着くと俺まで怒られんだろ。いいから押さえとけよ。」
その背中は振り向きもせず俺に向かって雑に答えた。
二段ベッドと机しかない狭い狭い2人部屋。
机に向かっている骨ばった背中は、俺と同室の蓮(れん)という男だった。
俺より1学年上で妙に痩せてて目がギョロギョロしてる奴で、こいつは言わば『負け犬』の生き方を選んでいた。
「柊、お前よく生きてるよな。いつもいつもあんだけ殴られて。さすがに今回は死んだかと思ったけど。」
キィと椅子を回して、蓮がニヤニヤしながらこちらを向いた。
「死ぬかよ、あんなので。てめーと違ってこちとら殴られてる年季が違うんだよ。生憎だったな。」
俺はそう言うと血にまみれたタオルを蓮に向かって投げ付けた。
蓮は嫌そうな顔をしてそれを払うと
「なんでもいいけど俺にとばっちりが来るような真似だけはすんなよ。」
そう言って、また椅子をキィと回し俺に背を向けた。