愛を知る日まで
ただ、まあ、なんと言うか。
その時の俺の感想はそれだけだった。
真陽は特に男の目を惹くタイプではないし、あとは『ちっちぇ女だな』くらいにしか思わなかった。
おまけに園庭で木に引っ掛かったボールを取ろうとして、地面から足が離れてないジャンプを繰り返してるのを見たときはハッキリ言って『どんくさいヤツ…』と思った。と言うか口に出してしまったが。
だから、俺はいつものようにこの女とも別に関わろうとは思っていなかった。
どうせこいつもそのうち俺を嫌い出すだろ。勝手だ迷惑だ厄介だって蔑むに決まってる。
そう、思ってた。
---この時の俺は、多分きっと諦めていたんだ。
どうせどいつもこいつも俺を嫌うんだって。遠ざけるんだって。
今はまだ雉さんのおかげで居られても、その内ここにも居られなくなるんだろうなって。
もう、諦めていたんだ。
だから。
「やっかいなワケないじゃん!柊くんは、今日私を助けてくれたじゃん!子供にもいっぱい好かれてるじゃん!確かに愛想は無いけど、ぬくもり園に必要な人だよ!」
夕暮れの帰り道で女が俺をまっすぐ見ながらそう言ったとき
俺は、どうしていいか分からなかったんだ。
…何言ってんだよ、この女。
俺が必要なワケ無いだろ。厄介じゃ無いワケ…
「バカじゃねーの。」
俺はそう吐き捨てて早足でその場を立ち去った。
……っ、バカだ、バカだ。あの女はバカだ。俺の事を何も知らないクセに。俺がどれだけ嫌われて来たか、拒まれてきたか、何も知らないクセに!
心臓が激しく脈打つのが止まらなかった。
何も知らないクセに綺麗事並べやがって、知った風な口聞きやがって!
大嫌いだ、あんな女!バカでどんくさくて偽善者で、大っ嫌いだ!!
---怒ることしか、出来なかった。
きっと、恐かったんだと思う。この感情が。
自分を諦めていた俺は、否定されるのが当たり前だと思っていたから。
だから。喜ぶのが、嬉しいのが、恐かったんだと思う。
認められたなんて夢を見たら痛い目に合うって信じてたから。
けど
この日、俺の胸の昂りはいつまで経っても治まらなかったんだ。