愛を知る日まで
「濱口さんがぎっくり腰になっちゃってしばらく休む事になったの。悪いんだけど柊くん、代わりにお手伝いに来てくれないかしら。もちろん御礼はするから。」
雉さんから掛かってきた電話に、俺は逡巡した。
もうぬくもり園には行きたくない。でも、雉さんとの約束もあるし無碍に断るワケにもいかない。
なるべく、真陽とシフトが被ってない事を祈りつつ俺は渋々と了承した。
最悪。
俺が代わった濱口さんのシフトは全て真陽とペアになっていた。
よりによってどうして。
これが以前だったら俺は飛び上がるほど喜んだだろうけど。どうして会いたくない時に限ってこんな。
久しぶりに顔を合わせた真陽が、明らかに戸惑って気を使ってるのが分かる。
そんな態度にさえ腹が立つ。なのに。
たった数日だけ見なかったその顔に会った瞬間、俺の胸はまた苦しいほど高鳴りだす。
ただ会えただけで堪えようのない喜びが込み上げる。
手に入らないのに、この女は酷い女なのに。そう自分を一生懸命否めても目の前に居る真陽が、俺は好きで好きでどうしようも無かった。
だから。
あの偶然が。
あの夕立の悪戯が。
俺の中に渦巻く感情の全てを、爆発させてしまって
気が付けば俺は目の前の真陽をこの腕に抱きすくめていた。