愛を知る日まで
それでも、どこかまだ俺の心にあった最後の不安を消し去ってくれたのは
真陽が泣きながら紡いだ『後悔してない』の言葉だった。
安心と、そして、同時に突然襲ってきた罪悪感。
これから、真陽が背負って行く十字架。
俺を受け入れた事でこれから真陽はどうなっていくんだろう。
裏切れないと言っていた婚約者の元に、胸を痛めながら帰るのだろうか。
すっかり陽の暮れた道を、一人で。
……ここに、いればいいのに。
俺が、守ってやるから。婚約者の所になんか帰らなければいいのに。
沸き上がってきた気持ちは庇護欲――それとも独占欲?
その手を掴んでもう一度抱き寄せたい衝動に駆られる。けれども。
それが真陽を困らせる事は分かっているから。
「明日はちゃんと行くから。真陽も休むなよ。」
そんな子供のような約束しか、俺には出来ない。
微笑みながら手を振って、自転車を押しながら歩いていった後ろ姿を見ながら
俺は狂おしいほどの切なさを感じていた。
俺を受け入れてくれた、言葉で言い尽くせないほどの喜びと
その温もりが俺じゃない男の元へ帰っていく、身を裂くような嫉妬。
大切にしたい。俺のものにしたい。泣かせたくない。もっと触れたい。もっと抱きたい。俺の側にいて欲しい。もっと、もっと、真陽の全てが欲しい―――
嬉しくて、切なくて、苦しくて。
けれど、幸せで、幸せで。
一人きりで何度も泣いた、夏の、夜。