もう泣かないよ
★海の底に…――奏太SIDE
朝は晴れていた空は、どんよりと重たそうな雲に覆われていた。
「ダメだ、戻るぞ」
俺と同じく新人漁師の健太が言う。
「一雨来るな」
ベテラン漁師の岩崎さんが、鼻をひくつかせる。
…失礼ながら、あなたは犬ですか?なんていえねぇ…。
「港まで戻るぞ」
岩崎さんの指示で、船が向きを変える。
だが、既に時遅く―――。
山の天気は変わりやすいとかいうが、今日の海は、まさしくそれだった。
一閃の光が空を駆け抜けたかと思うと、一粒の雫が、甲板にしみを作った。