もう泣かないよ
その言葉が私の胸に響いた瞬間――
その言葉の意味を理解した瞬間――
私は医者の白衣の胸座を掴んだ。
「あなた、医者でしょう!?お願いだから、奏太を助けてよ!」
医者が、首を横に振った。
「もう、助かりません」
私は、俯いた。拳の上に、涙がこぼれる。
「一昨日、やっと…結婚が決まったばかりなのに…。なんで…なんでなのよ…」
鮮明に思い出せた一昨日の記憶は、靄がかかったみたいにおぼろげで。
奏太の顔も声も、くっきりとは思い出せなくて。
「医者なんて、名ばかりじゃない…。結局は、人の命一つさえ救えやしない!」