もう泣かないよ
父さんの顔を見ると、父さんは泣いていた。
「お前たちは知らなかったかもしれないが、俺は毎晩毎晩泣いてたんだ」
そういえば、母さんが死んだあと、父さんの目が腫れていたことを思い出した。夜な夜な続く残業のせいかと思っていたけどあれは、泣いてたんだ…。
「じゃあなんで、いつも平気な顔してたの。私たちの前で泣いたって――「子供だったお前たちの前で大人の俺が泣いてみろ。お前たちが不安になるだけだ」
父さんは私たちのことを考えて、配慮してくれてたんだ…。
その真実が私にとっては嬉しかった。
「それに、」父さんは右手の親指を左胸に突き立てた。「母さんはいつだってここん中にいるからな」
「心の、中に?」
私は左胸に手を当てた。
「奏太もいるのかな…?」
「きっといるさ」
今度こそ、前を向いて歩いていこう。私はそう決めた。
「それとな、海」