もう泣かないよ
服を着替えて部屋を出る。
「海、遅かったな」
父さんが言うと、お兄ちゃんが父さんの脇腹を突いた。
「え?…あぁ、そうか。いや、なんでもない。さっき言ったことは聞かなかったことにしてくれ」
父さんはバツの悪そうな顔で調理室に引っ込んだ。
「お兄ちゃん、今何言ったの」
私が聞くと、お兄ちゃんは唇に人差し指を当てた。
「な・い・しょ」
私は頬を膨らませてみせた。
「変顔しても教えてやらないからな」
私はため息をついた。――ところで、携帯が鳴った。
「ひょわっ」
「何、ひょわっ、って。ウルトラマンのしゅわっちのパクリか?」
お兄ちゃんがからかってくる。