ホーリー 第一部
「んにゃ、、、？」
少女は目をゆっくり開けて、辺りをきょろきょろと見回した。少年とうさぎたちが、囲うようにして少女を見つめていた。黒い霧はもう少女のからだに戻っていた。
「ほにゃあああ～～っ！シェフ！シェフ！ごめんにゃ！眠ってしまったにゃあ！」
慌てて、飛び上がりながら言う。耳も尻尾もピーンと尖らせて。
「ううん。そんなこと、いいのだ。それより、ずいぶん疲れていたみたいだね。すやすやと、気持よさそうに眠っていたよ。途中で、なぜかうさこちんが“わてもねる(－ω－)”とか言い出してね。それでピノのすぐ横でうさこちんも眠ってさ。もうっ、寝顔が似すぎてて、どっちがどっちだかぜんぜんわからなかったよっ。ふたりともほんとに幸せそうで、見ていてうれしかったのだ」
「ほにゃ、ほにゃ。そんなに寝顔が似てたのにゃ？？」
「うん。ほんと、もうそっくりだったよ」
「ほんと、ピノはどんどんうさこちんに似てくるね(・ω・)ノ」
「ぶふふふ。ピノよ。わてに似るとは、なかなかういやつよのぅ(－ω－)ノ」
「て、うさこちん、、どこでそんなことばづかいを覚えるのだか、、、」
「んにゃ～、これに似てるのか、、、」
少女は、大きなうさぎをひっつかんで正面からその顔をまじまじと覗き込みながら言う。
「んにゃぁ、またピノのイメージが、、、」
「ほう、ほう、そんなにうれしいのか、ピノよ(－ω－)ノ」
「う～ん、うさこちんのあたまはやっぱりめでたいなあ」
「ぶふふふ、そんなにうらやましいか、シェフよ(－ω－)ノ」
「うさこちんって、幸せものだね、、、(・ω・)」
そんなやりとりに、少女はまたうれしそうに笑う。くすくすって。さっきだって、残念そうにしてみせても、ほんとうは大きなうさぎとの共通点はうれしいのだと思う。女の子だから、いろいろと思うことはあるのだろうけれど。
「んにゃ、、、シェフ。きょうは練習どうしよう？」
少女が思いだしたように、すこし申しわけなさそうに言う。
「う～んと、そうだね。このまえ、あと一曲じゅんびしなきゃって言っていたよね。それがきのうの晩に完成したんだよ。ピノには、鈴と鼻歌コーラスをやってもらおうかなって想ってるよ。しゃんしゃんしゃんの、らんらんらんってね。とりあえず、どんな曲か聴いてみてよっ。きょうはそれでおしまいにしよっ」
「もう、できたのかぁ。さすがシェフにゃっ。なんていう曲なのにゃ？？」
「“fairly tale”っていうなまえだよ」
「うにゃぁ、いいなまえにゃ。ちょっとたのしみにゃ」
「うふふ。それじゃあ、、、」
少年は、すこしだけ不安そうな面持ちで、静かに、ひとつひとつの音を大切にしながらギターの弦を爪弾きはじめた。
｢あの森でぼくたちは～｣
ギターの前奏が終わり、歌いはじめる。スリーフィンガーによる繊細な音づかいを邪魔しないよう、なるべく穏やかな声で。そうして、ふわふわと浮遊感のあるテンション・コードに、薄絹のようにか細い歌声を折り重ねていく。歌いながら、ちらりと少女の方に目をやると、想い出を想起させることばに少しほっこりと顔をゆるませていた。
｢きみをみつけたとわらってたけど｣
コード進行が変わり、わざとらしくならない程度に、風が少し浮かび上がるみたいに、自然にメロディーが熱を帯びる。
｢ほんとうはもうひとりかくれてたのに｣
いちばんが終わる。さっきまでの音づかいに微妙に色どりをくわえた間奏が続く。空気が哀しいときの、なるべくやわらかく抑えた物音みたいに。静かに、ほんの少しだけ暖かく。
｢あの森はぼくたちを～｣
にばんを、歌い紡いでいく。少女の方をちらりと見やると、目を遠くにやって、なんともいえない細かな表情をしていた。
｢出かけてしまう朝には涙が溢れたっけ｣
そう歌うと、少女はぴくんっと動いて、下を向いた。
｢夜に眠れないこどもたちが眠れるようにときみは泣いていた｣
歌い終える。間奏とおなじパターンでの終奏が続く。少女は、ひくっ、ひくっと、音を鳴らして、肩を上下に揺らした。泣いていた。少年は滞りなく演奏を続けながら、そんな少女を見てじぶんもまた少しだけ涙が込み上げてくるのだった。
｢ピノ・・・？｣
急に泣き出してしまったので、少年はすこし心配になっていた。もしかするとなにか触れてはいけないところに触れてしまったのではないかとも思った。
｢ひっく・・・ひっく・・・ひっく・・・｣
とまらずに、泣き続ける。まるで堰が取れたみたいにボロボロと。少年にはそんな少女がとても愛おしく想えた。戸惑いながらも微笑を浮かべ、少女のあたまにすうっと手を寄り添わせた。
｢またシェフの歌で泣いちゃったね。ピノ、ずっと涙も出なかったのに｣
ひとしきり泣いて、落ち着いてから少女が言った。少年はその様子に、そのことばに、やはり少女の抱えているものの重たさを感じた。とても哀しそうで。それなのに健気で、やわらかくて。ほんとうに尊い人なのだと、痛切に想うのだった。
空がすこし白んで、朝がゆっくり近づこうとしていた。少年たちはうさぎたちもいっしょになって、木の葉を敷き詰めたベッドに川の字になった。少女は涙を流してすっきりしたのか、いつも以上にうれしそうにしていた。深く安心したような様子で。疲れもあったのだろう。少女は大きなうさぎのまるい手をふにふにつまみながら、少年にあたまをなでなでされながら、すぐ眠りについた。少年はこれからのことを考えていた。どうすればいいのだろう。なにができるのだろうかと。けっきょく、答えなんか見つからなくって、少年もまた気づかぬ内に暖かい眠りの中に沈み込んでいた。
少女は目をゆっくり開けて、辺りをきょろきょろと見回した。少年とうさぎたちが、囲うようにして少女を見つめていた。黒い霧はもう少女のからだに戻っていた。
「ほにゃあああ～～っ！シェフ！シェフ！ごめんにゃ！眠ってしまったにゃあ！」
慌てて、飛び上がりながら言う。耳も尻尾もピーンと尖らせて。
「ううん。そんなこと、いいのだ。それより、ずいぶん疲れていたみたいだね。すやすやと、気持よさそうに眠っていたよ。途中で、なぜかうさこちんが“わてもねる(－ω－)”とか言い出してね。それでピノのすぐ横でうさこちんも眠ってさ。もうっ、寝顔が似すぎてて、どっちがどっちだかぜんぜんわからなかったよっ。ふたりともほんとに幸せそうで、見ていてうれしかったのだ」
「ほにゃ、ほにゃ。そんなに寝顔が似てたのにゃ？？」
「うん。ほんと、もうそっくりだったよ」
「ほんと、ピノはどんどんうさこちんに似てくるね(・ω・)ノ」
「ぶふふふ。ピノよ。わてに似るとは、なかなかういやつよのぅ(－ω－)ノ」
「て、うさこちん、、どこでそんなことばづかいを覚えるのだか、、、」
「んにゃ～、これに似てるのか、、、」
少女は、大きなうさぎをひっつかんで正面からその顔をまじまじと覗き込みながら言う。
「んにゃぁ、またピノのイメージが、、、」
「ほう、ほう、そんなにうれしいのか、ピノよ(－ω－)ノ」
「う～ん、うさこちんのあたまはやっぱりめでたいなあ」
「ぶふふふ、そんなにうらやましいか、シェフよ(－ω－)ノ」
「うさこちんって、幸せものだね、、、(・ω・)」
そんなやりとりに、少女はまたうれしそうに笑う。くすくすって。さっきだって、残念そうにしてみせても、ほんとうは大きなうさぎとの共通点はうれしいのだと思う。女の子だから、いろいろと思うことはあるのだろうけれど。
「んにゃ、、、シェフ。きょうは練習どうしよう？」
少女が思いだしたように、すこし申しわけなさそうに言う。
「う～んと、そうだね。このまえ、あと一曲じゅんびしなきゃって言っていたよね。それがきのうの晩に完成したんだよ。ピノには、鈴と鼻歌コーラスをやってもらおうかなって想ってるよ。しゃんしゃんしゃんの、らんらんらんってね。とりあえず、どんな曲か聴いてみてよっ。きょうはそれでおしまいにしよっ」
「もう、できたのかぁ。さすがシェフにゃっ。なんていう曲なのにゃ？？」
「“fairly tale”っていうなまえだよ」
「うにゃぁ、いいなまえにゃ。ちょっとたのしみにゃ」
「うふふ。それじゃあ、、、」
少年は、すこしだけ不安そうな面持ちで、静かに、ひとつひとつの音を大切にしながらギターの弦を爪弾きはじめた。
｢あの森でぼくたちは～｣
ギターの前奏が終わり、歌いはじめる。スリーフィンガーによる繊細な音づかいを邪魔しないよう、なるべく穏やかな声で。そうして、ふわふわと浮遊感のあるテンション・コードに、薄絹のようにか細い歌声を折り重ねていく。歌いながら、ちらりと少女の方に目をやると、想い出を想起させることばに少しほっこりと顔をゆるませていた。
｢きみをみつけたとわらってたけど｣
コード進行が変わり、わざとらしくならない程度に、風が少し浮かび上がるみたいに、自然にメロディーが熱を帯びる。
｢ほんとうはもうひとりかくれてたのに｣
いちばんが終わる。さっきまでの音づかいに微妙に色どりをくわえた間奏が続く。空気が哀しいときの、なるべくやわらかく抑えた物音みたいに。静かに、ほんの少しだけ暖かく。
｢あの森はぼくたちを～｣
にばんを、歌い紡いでいく。少女の方をちらりと見やると、目を遠くにやって、なんともいえない細かな表情をしていた。
｢出かけてしまう朝には涙が溢れたっけ｣
そう歌うと、少女はぴくんっと動いて、下を向いた。
｢夜に眠れないこどもたちが眠れるようにときみは泣いていた｣
歌い終える。間奏とおなじパターンでの終奏が続く。少女は、ひくっ、ひくっと、音を鳴らして、肩を上下に揺らした。泣いていた。少年は滞りなく演奏を続けながら、そんな少女を見てじぶんもまた少しだけ涙が込み上げてくるのだった。
｢ピノ・・・？｣
急に泣き出してしまったので、少年はすこし心配になっていた。もしかするとなにか触れてはいけないところに触れてしまったのではないかとも思った。
｢ひっく・・・ひっく・・・ひっく・・・｣
とまらずに、泣き続ける。まるで堰が取れたみたいにボロボロと。少年にはそんな少女がとても愛おしく想えた。戸惑いながらも微笑を浮かべ、少女のあたまにすうっと手を寄り添わせた。
｢またシェフの歌で泣いちゃったね。ピノ、ずっと涙も出なかったのに｣
ひとしきり泣いて、落ち着いてから少女が言った。少年はその様子に、そのことばに、やはり少女の抱えているものの重たさを感じた。とても哀しそうで。それなのに健気で、やわらかくて。ほんとうに尊い人なのだと、痛切に想うのだった。
空がすこし白んで、朝がゆっくり近づこうとしていた。少年たちはうさぎたちもいっしょになって、木の葉を敷き詰めたベッドに川の字になった。少女は涙を流してすっきりしたのか、いつも以上にうれしそうにしていた。深く安心したような様子で。疲れもあったのだろう。少女は大きなうさぎのまるい手をふにふにつまみながら、少年にあたまをなでなでされながら、すぐ眠りについた。少年はこれからのことを考えていた。どうすればいいのだろう。なにができるのだろうかと。けっきょく、答えなんか見つからなくって、少年もまた気づかぬ内に暖かい眠りの中に沈み込んでいた。
