真冬の花火
 帰りのバスの中、奏子がふふっと笑いだした。
「何?」
「あ、中学の時なんだけど、手持ちの花火を空中で動かすと光の残像でその形が見えるじゃん。それに気が付いたのね。 そっからハートとか、好きだった子のイニシャルだとかをずっと描いてて。恋が実りますよーに!って」
「それをさっきの花火で思い出したんだ?」
「そう、花火よりその光の模様を作るのに一生懸命だったかも」
 昔の事を楽しそうに、また、少し恥ずかしそうに頬を染めながら話す奏子を見て、直也は「ふーん」とだけ言って肘掛けに肘をつき、そっぽを向く。
「……来年の夏は久しぶりに花火でもやるか」
 しばらく黙っていた直也は奏子の方に向き直って口を開いた。
「直也なら“今からやる!”って言うと思った」
「まぁ、まず今の季節花火売ってないし、家にあんのもだいぶ前の湿気たのがちょろっとだし、寒いし」
「一番最後のが一番の理由でしょ」
 直也を見ると図星だったのか頬を掻いて笑っている。
視線をずらした直也につられて見ると、窓の外には雪がちらついていた。
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