Come Back Anytime
 このとき、潤の中で激しいジレンマが渦巻いた。
 よりによって、最も借りを作りたくない相手に、一度ならず助けられてしまった。
 決して卑屈にはなりたくなかったが、それでも最低限の礼くらいは言わないと――潤は感じたのか。

「ありがと……」

 それはかなり不器用で、未由と視線を合わすことなくつぶやいたが、

「…………」

 まさかの完全スルー。

(かわいくねぇ~!)
(文句のひとつも返せよ! 聞こえないほど小さな声でもなかったろうが)

 こうして息が詰まるような重苦しい時間に耐え、国語の授業がようやく幕を閉じた。
 しかし、これはまだ一時限目の授業が終了したに過ぎず、それでも潤の精神的疲労は計り知れないものであった。
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