変態王子
「おーい、湊。彼女かぁー?」
「畜生、裏切り者めー!」
この冷やかしは俺からしたら満更でもないが、彼女は顔を赤らめてうつ向いている。
迷惑なのかな…?
そう考えると、ショックな気持ちにはなるが、「うっせぇ!」と友達をあしらい、とりあえず場所を移動しようかと言って屋上に向かった。
「ごめんね、あんなバカなやつらで…」
屋上へと続く階段を登りながら、謝る俺に、苦笑いを浮かべた彼女。
「湊さんって言うんですね…」
沈黙をどうかしようとしたのだろう。
屋上扉を開けた直後に、急に名前を呼ばれたことに動揺を隠しきれず、段差に躓き転んでしまった。
「だっ、大丈夫ですか?!」
慌てて駆け寄る彼女に、「大丈夫大丈夫」と笑みを向けるが、それはポーカーフェイスを気取っただけにすぎず。
ただ自分の名前が彼女の口から出ただけのことなのに嬉しさが爆発してしまいそうで、にやけそうになる顔を隠そうとしてるだけのこと。
「そ、そう言えば、お互い名乗っていなかったね」
けど、俺は知っている。
もう事前に把握済みなのを、彼女は知らないであろう。