天神楽の鳴き声
運命の日はゆっくりと近づいていた。

色鮮やかなくみ紐のあしらわれた朱色の簪は艶やかなぬばたま色の髪を持つ雛生によく似合った。

「さあ、今日のためにあつらえた着物に袖を通し下さいませ」


少し年配の柔らかい雰囲気を持つ女性が誕生祭の晴れ着を着るのを手伝ってくれる。

朱色の巫女になることを強く望んだ胡兎とは話すことが出来ていない。なんとなく、話しづらくなってそのままだった。
どうして、彼女があんなにも朱色を望んだのかわからない。けれど、雛生たちのような外から来た人間にとって、この世界に置いてかれないよう必死だったのだとおもう。
力がなければ何も望めない、それは非力な子供にとって残酷な事実だった。

「雛生様、なんだか、ご気分が優れないようですけど、大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です」

胡兎は来るのだろうか、そんな事が頭を過る。


「そうですか、なら良かった。…あぁ、よく似合っておいでですよ」

しゃらん、と動くと鈴の音がする。
首を動かすのさえ億劫で、何故私はこんなところにいるのだろう、と聞きたくなる。重くて、豪奢な着物はまるで自分を捕らえているみたいだった。
最後に唇に紅をさす。
誰もが息をのむ、そんな美しさだった。
けれど雛生には、鏡に映る自分は偽物のような気さえした。

彼女が席を外した時。

「似合ってるわよ…」

ふらりと、そんな事を言って鏡を映り込んだのは、

「胡兎…っ」
「全然望んでないくせに朱色の巫女に選ばれて…わたしが馬鹿みたいだって思ってるんでしょう?私のこと!!」


「こ…」
「游先生のお気に入り、…一体どうやって取り入ったのよ!?」
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