天神楽の鳴き声
そんな子ども染みたことを考える。
明乎にも愛しい相手がいるらしい。莉津の相手は空平なのだろう。彼女の想いはみていて痛ましい、交わらない想いは通り過ぎたらどうなるのだろう。
そして、空平の想う相手は誰なのだろう。長く一緒にいれば、空平の想う相手が莉津ではない誰かということくらい鈍い雛生にでもわかっていた。

「失礼します」

游先生の部屋に雛生は入る。莉津はお茶の用意をするといって厨房の方に駆けていく。椅子に腰かけた游先生は色無しだったころと変わらないように見えたが、雰囲気はさらに老成したようだった。銀様に似た雰囲気だ。

「無事に帰ってこれてよかったですね。いえ…御無事をお慶び申し上げます、朱巫女さま」

深く礼をとる游先生を慌ててとめる。

「そんなに風にしないでください、ここでは、私は、先生の弟子でしょう?」
「…礼を尽くすとは、そういうものですよ。あなたには堅苦しいかもしれませんが、外の世界にだってあなたをそう扱う方がいたはず」
「…なんでわかるんですか?」
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