天神楽の鳴き声
「游さんですよね?沚依から聞いています。村の奥に屋敷がありますから、ご案内します」

歳は十三くらいだろうか、着物には鮮やかな牡丹が描かれている。どこからか軽やかな鈴の音が鳴り、赤い花びらが舞う。柔らかな笑顔を見せ、微かに光る場所を彼女は指をさした。
普通の人間と違わないように見えるが、雰囲気に違和感をおぼえる。

「…精霊?」
「結構本気で化けてるんですけど、わかっちゃいましたか?…流石です!あたしは精霊の鳴桂です。」

彼女は飛ぶように歩きながら、楽しそうに笑う。沚依の精霊だろう、可愛らしく、彼女らしい。精霊は自分自身を顕す鏡のようなものだ。游は自分の手首につけてある藍色の石に触れた。

ー私の子はもう、壊れて、会えなくなってしまったけれど。

そんなことを考えていると、鳴桂は不思議そうにこちらを向いた。

「もうつきましたよ?」
「ああ、ありがとう」

私は散歩してます、と鳴桂は見る間に小さくなり、手のひらくらいになると風にのって、飛んでいく。どうやら、古い馴染みである事を察した鳴桂の配慮らしい。
屋敷の中に入ると、沚依は御茶の用意をしていた。

「頃合いかなあ、と思って鳴桂を寄越して良かったわ。…游ってば変わらないのねえ…。私はもうしわくちゃのお婆ちゃんよ?」
「そりゃあ、宮の人間は時間の流れから外れるから。沚依の時詠みも鋭さは健在か」
「かなり衰えたわ。…でも、不思議ね。あなたが来ることははっきりとわかったの…あなたが話したいことも」
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