天神楽の鳴き声
「…生け贄、ねぇ…」

明乎が呟いた。

「そんな事いってたの?姫さんは」
「そー、なかなか、真っ直ぐに育っちゃったわよ?」
「困っちゃいますよねぇ…喰われなきゃいいけど」

嫌われたら喰われてしまうよ。
それは例外を除いて事実だ、好かれれば天寿を全うできる。

たんに、天神楽は好いた人間を一番熟れた状態で喰いたいという話だけれど。

「事実、だけど。生け贄っつーのは」

壁にもたれ、妙に大人びて遠くを見つめる、空平。
その目は暗い絶望と腹立ちをあらわにしている。

「空平さん、」
「繁栄のため、明日を生きるはずの命が喰われる」

俺らはその時まで放し飼いだものねぇ、と笑う。

朱色の巫女の仕事は、天神楽が鳴かないように宥めること。

天神楽が鳴く時、この地に災厄が降り注ぐ。

数千年前、一度、七百年前に一度、鳴いたという。

数千年前の事は記録に載っていなかったが、七百年前は地震、冷害、流行り病と確かに被害を出している。


鳴かないように宥める事、それが巫女としての仕事。
天神楽の選んだ巫女と帝の子が次代の帝となる。

天神楽は争いを嫌う、その制度は皇族間で無用な争いを避けるためにある、だからこそ、雛生には産んでもらわなければいけない。

次代の御子を、この変わった世界を繋げていくために。
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