天神楽の鳴き声
椎夏は奥へ奥へと進んでいく。ほの暗い廊下を進んだ一番奥に儀式等に使う身清めの場があるのだ。

椎夏は戸の前に止まると、行灯に火をつけていく。

「湯帷子(ユカタビラ)にお着替えを。」

武官である明乎は戸の外で待ち、莉津は椎夏と一緒に雛生の着替えを手伝ってくれる。
まるで人形のようだと思うけど、雛生にはこの場から這い出す力がないのだから仕方ない。


身を清めるその場所の名を、黎叡(レイエイ)の間と呼ぶ。水晶をきりだし作る柱の細工や置物、繊細な硝子細工の数々、高い天井の至る所から流れ落ちる水は微かな灯を吸い込みきらめく。
厳かな印象を受けるその場所に雛生は足を踏み入れた。
床はひやりと冷たく、水滴が飛んでいた。


「では、ごゆっくり」
一般の紅官はこれ以上奥に入ることは許されない。
椎夏と莉津は礼をして、段幕を下げる。


残された雛生は、天井から流れ落ちる水が溜まった場所に身体を浸からせた。

湯浴み、というよりも禊に近いこの儀式は日に一度必ず行われる。
身清めだとか、禊と言わず湯浴みと言う理由は、儀式の最中は一番無抵抗になるため、その期を知られ、攻撃されないようにするための対策なのだという。
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