天神楽の鳴き声
「ふぅ…」

雛生は手で水をすくう、肌に溶けそうになりながら、絹のようにするりと流れ落ちる。

力を高めるらしい、この儀式。けれど、雛生は生まれてこのかたそんな素晴らしい力が自身の身のうちにあるなど感じたことはない。もちろん、朱色の巫女という位を貰い受けた今も。

では、こんな儀式に意味はあるのだろうか?


自分に力が無いことは、痛いくらい明白だ。
天神楽の宮に来る前だって…
だからこそ、文句を言うしかないのだ。弱い人間は上の力に淘汰されるしかない。

雛生は何の気配もあるはずのない腹を撫でた。
朱色の巫女の役目は、舞踊り、そして、次代の帝を産むこと。

産み育てる為だけの存在。だから、産んだ途端、朱巫女の役目を返上し、后妃という所に収まるのだ。

「いやだ…」


其れだけの意味しか持つことが出来ない、そんな自分が情けなくて、つらい。


私はそんなに意味の無い存在なんだろうか?

唇を噛んだ。

ぎゅっ、と目を瞑ると、志臣の顔がちらついた。
なんで、あんなに優しくしてくれるんだろう?
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