天神楽の鳴き声
『―…い』

突然の何処からともなく響いたその声に、びくりと雛生は身体を揺らした。

「だれ?」

『―来い…』

はっきりと声が聞こえたかと思うと、雛生の周りに術式が浮かび上がる。
その術式は薄い水の膜を出現させ、雛生を包み込み始めた。

「…!!」
やばい、これはやばい。
雛生が焦る間に、ずぷりと覆った。

術式が青く輝いた。
転送の術式?

そう考えた瞬間、その術式の力で体ごと違う場所にふっとばされ、その強い力におされ、雛生は意識を手放した。


―…

「あの、雛生様?」
莉津は段幕の中に話しかけるが、何の返事もない。

どれくらいで終わるという目安はないのだから、別に気にすることはないのだが、物音がしないというのは可笑しい。


椎夏も不安そうな顔をしてこちらを窺う。
椎夏は紅官になって日が浅く、経験も少ない。
莉津は、自分がしっかりしなくては、と気合いをいれ、椎夏に話しかける。


「段幕を上げ、中に入りましょう」
「…はい!!」


ふたりで段幕を上げるが、そこには何の姿もなく。
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