天神楽の鳴き声
「雛生さま?!」

椎夏は叫ぶが、返事が聞こえることはない。

莉津は、ふと床に異変を感じた。歪な紋様、古くから残る書物、霞榴国歴史書などに書かれているような文字がびっしりと円のようになって描かれている。

これは、術式?

専門外すぎて、何がなんだかよくわからないが。

「明乎!!」
「なにー?」


外で待機している明乎が莉津の呼び掛けに返事をする。

「白官たちを呼んで!!…あと急ぎこの場所の封鎖を。誰も立ち入れないようにして。…雛生様がいらっしゃらないわ!!」

ええ、と言うやいなや、走り去る音がする。
明乎の俊敏さはかなりのものだ、すぐ伝えてくれるだろう。

「椎夏は白官達が来るのを待っていて。わたしは執務室の方へ行ってきます」


誰より、雛生のことを案じているであろう、彼にその事を伝えるために。

雛生様…
そう心の中で呟き、莉津はぐっ、と拳を握った。



―…
< 43 / 133 >

この作品をシェア

pagetop