天神楽の鳴き声
執務室である鍬定(ショウジョウ)の間でははなしあいが行われていた。
「それで、」
「申し上げます。今のところ、北の各村々に見られるようです。依然原因は不明。症状は、黒い蕾のような痣が胸に現れ、最初は、微熱、軽い吐き気…風邪のような症状が現れ初め、次第にその痣は広がり、その頃には体は喋りも動かなくもなります。死には至りません、しかし、眠っているかのようになってしまうんだそうです。」
地方からもどってきた、官吏の男が志臣に告げる。彼は天神楽の宮に住むことを許された立場ではないので、霞札(カフダ)という、天神楽の樹より切り出された有り難い札が首から下げられている。
志臣は書類を睨む。この病の訪れは国の傾きを意味する。治療法が見つかっていないのだから、解決策など見つかるはずもなく。
連絡事項だけ告げると、男は執務室を出て行く。
「はー…っ」
志臣が深くため息をつくと、
「なあにが、はーっ、ですか!!…ぼくがため息つきたいですよ!!」
「五月蝿いぞー、葉深(ヨウシン)」
隣の机でがりがり書類に書き込む男、葉深は目線を上に上げて志臣に噛み付いた。茶色っぽい髪を後ろでまとめ、萩色の瞳は丸く、どこか幼い印象があるが、志臣より五つも上である。
「主上、…まだ太子君は産まれないのかね?…御懐妊なさってない?はぁ、それは…にやにやされて聞かれるこっちの身になって下さい!!」
「それで、」
「申し上げます。今のところ、北の各村々に見られるようです。依然原因は不明。症状は、黒い蕾のような痣が胸に現れ、最初は、微熱、軽い吐き気…風邪のような症状が現れ初め、次第にその痣は広がり、その頃には体は喋りも動かなくもなります。死には至りません、しかし、眠っているかのようになってしまうんだそうです。」
地方からもどってきた、官吏の男が志臣に告げる。彼は天神楽の宮に住むことを許された立場ではないので、霞札(カフダ)という、天神楽の樹より切り出された有り難い札が首から下げられている。
志臣は書類を睨む。この病の訪れは国の傾きを意味する。治療法が見つかっていないのだから、解決策など見つかるはずもなく。
連絡事項だけ告げると、男は執務室を出て行く。
「はー…っ」
志臣が深くため息をつくと、
「なあにが、はーっ、ですか!!…ぼくがため息つきたいですよ!!」
「五月蝿いぞー、葉深(ヨウシン)」
隣の机でがりがり書類に書き込む男、葉深は目線を上に上げて志臣に噛み付いた。茶色っぽい髪を後ろでまとめ、萩色の瞳は丸く、どこか幼い印象があるが、志臣より五つも上である。
「主上、…まだ太子君は産まれないのかね?…御懐妊なさってない?はぁ、それは…にやにやされて聞かれるこっちの身になって下さい!!」