天神楽の鳴き声

無力な人々

あまりの寒さに雛生は目を覚ます。ぼんやりとしながら視界を巡らすと、ここが天神楽の宮ではないことがわかって慌てて身体を起こす。簡素な室で机が一つ、窓が一つ付いているだけだったが、その窓から外を覗いても見覚えのない景色が広がるだけだった。

「さ、む…」

寝台に寝かされていたようだが、あまりの寒さに体を縮こませた。もともと着ていた筈の湯帷子は恐らく脱がされたのだろう、雛生は見覚えのない着物を羽織っていた。


「あ、起きたぁ?」
妙に間延びする、大きな声にびくっ、と雛生は体を揺らした。
見ると、朗らかに笑う、ひょろりと背の高い男がお茶やらお茶菓子やらをがちゃがちゃ音をたてながら運んでいた。

「あの…っ、ここは、どこですか?」
「北蘭州、梛枝村(ナギエソン)だよ。…ていうか、むしろ君はどこから来たんだい?…びしょびしょに濡れて、あんな薄着でいたら風邪をひいてしまうよ。…それにここらは治安も悪い、乱暴されていたかもしれないよ。」

勝手ながら着替えさせてもらったよ、ごめんね?と男は笑う。だからこの格好なのかと納得すると同時に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にする。
「あ、大丈夫。着替えさせたのは僕の妹だから、気にしないで。」
あ、それは良かった。
雛生は胸を撫で下ろす。
< 48 / 133 >

この作品をシェア

pagetop