天神楽の鳴き声
「っ、いやっ…なに、これ」

振り替えると、門は閉まっており、暗闇が雛生達を支配する。
恐怖で塗りつぶされ、前後不覚になりながら走る。一体ここはなんなのだろう。

「うわぁぁぁぁぁあああっ」

あの男の子の叫び声だ、とそちらを振り向くと、誰も居ない。あちらこちらで叫び声があがるのに、何もない。しゃんしゃんしゃん、と鈴の音が聞こえる、ぶつぶつと経をよむような声、きゃっきゃっとした小さい子の笑い声。
頭が変になりそうだ。

「いや、あああああ」
感覚が遠のいていく、死にたくないよ、と心の内で閃いたように瞬く。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。


―次に気づいた時、かたい寝台で寝かされていた。心の落ち着くお香なのだろうか、寝ていた事を感じさせないくらい頭がすっきりしている。

「おきましたか、」
感情の籠らない声で、無機質に問いかけた游先生は雛生の目の前に白湯を置いてくれる。
「あのあ、私…」

「3日ほど眠っていました」
「そう、なんですか、…他の子たちは?」

「彼女のみ、…他は、天神楽に嫌われたようね。」

隣を見ると、胡兎が眠っていた。
嫌われた?
どういう意味なのだろうか、痛みだす頭をおさえながら、聞く。

「どういうこと…なんですか?」
「喰われた、ということよ。天神楽は好き嫌いが多くてね。…門で嫌いなものは喰ってしまうのよ。…ああ、宮に入れたからといって、この先嫌われない保証はないから」

喰われる可能性もあるのだ、と彼女は言う。
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