天神楽の鳴き声
「泣けない人の前では泣いて、泣きそうな人の前では泣かないってね。…だから泣かないよ。」
「わたしは後者だと言いたいんですか?」


少し震えた声で言うと、あれ?違った?と聞いてくる。莉津は、べつに、と独白のように、言葉をつなげる。

「全く泣いてない、ってわけじゃないんですよ。ただただ、わたしはいつまでたっても自分本位なんですよ。人の為、なんて綺麗な涙きっと流れてなんてくれません。」


雛生を、護ってやれなかった、そう泣くのは、自分が責められないようにするための防衛本能で、自分の心の負担を減らすための手段だ。空平の前で泣くのは、可哀想な“妹”のような自分を追いかけてくれるのを。優しくて、何度も騙される、騙されてくれる、そんなことを期待しているのだ。
自分の性格の悪さに吐き気がする。

そんな中、雛生も明乎も、自分の周りの人間は清廉だった。


「だから、わたしは、全然大丈夫なんですよ」

全然、大丈夫。

志臣が莉津の頭をあやすように撫でる。
その手は、空平に似ていた。

けれど。
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