天神楽の鳴き声
明乎は翠陵殿(スイリョウデン)という、主に翠官の出仕場所に入る。設備的には病院と変わらないが新薬などの開発を行えるような場所になっている。

色官たちの主な出仕場所にもそれぞれ医務室はあり、そこも日替わりで担当になったりするらしい。

「あ、明乎さーん、」

戸を開け、中を覗き込むと、肩までのさらさらとした黒髪の女の子がこちらに気づいて、手をぶんぶんふり、終いに書類をばささーっ落とす。


「大丈夫?伶璃(レイリ)」
「はいー、やっちゃいましたあ…。今日も室長に用ですかー?」

甘い間延びした声、媚びを売っているようだと同姓に嫌われがちだが、伶璃は彼女がきらいではない。

詮索はあまりしない、適度にほっといてくれ、空気の読める伶璃は賢いのだと思う。

「うん、ちょっとねー」
「壱ノ間にいらっしゃると思いますよー、薬の開発に今、力をいれているらしくってー」


すごい集中力ですよねー、共同の場所のはずなのに、まるで私室みたいですもん、と伶璃がいう。

じゃあ、ご飯食べてないだろうなあ。

伶璃に礼をいって、壱ノ間に急ぐ。

きっと、めんどくさそうな顔するんだろうけれど。

そんなことを考えながら、壱ノ間の戸を開ける。
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