天神楽の鳴き声
埃っぽい室、書類と古書などが連なって危うい塔を築いている。そんな汚部屋の中、戸に背を向け、少し猫背気味になっている男が一人。微動だにしないため、生きているのさえ危うい。

というか、集中しだしたら誰が入ってこようと気にしないのだろう、明乎の存在に気づく気配がない。

はあ、とため息をつき、その男を目隠しする。

「だーれだ!」
「鬱陶しい脂肪を僕の頭に押しつけないでくれ、明乎」
ぎゅむ、と当たった明乎の胸になんて言いぐさだろう。

「なっ!!夢と希望が詰まった胸よ!!脂肪だなんて言わないでよ」

くるりとこちらを向き、事実だろ?と冷たい声を投げ掛けてくる。
眼鏡を押し上げ、小馬鹿にしたような紫の目が奥からのぞく。黒髪を適当にくくった男は奈霧(ナギリ)という。


「お前がここに来たってことは、少しこっちを離れるのか?」

こっち、というのは天神楽の宮の事だ。

「そうでーす!察しが良くてすばらしぃーね、奈霧は」
「毎度の事だろ。で、何の用だよ、」
「少しの間離れるので、甘えて置こうと思いましてー」

明乎はそのまま奈霧に抱きつく。鬱陶しい、そう言いながらも、拒絶するわけではなく、受け入れてくれる、そんな優しさにいつも甘える。

恋人ではない、友人にしては親密すぎるその関係はどういう言葉で表せばいいのだろう?
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