天神楽の鳴き声
優しく、奈霧は明乎を撫でた。

明乎は宮外の潜入などに指名されることが多い、女の身である方が楽な場所もあるという理由で。仕方ないことだが、蒼官は男所帯ということもあり、嫌なことの方が多い。

悪い人ばかりではないが。

「さびしいんでしょー?…さては奈霧はあたしの事大好きだなあ?」
「なにがだ、阿呆」


黙って聞いてくれればいいのに、明乎は苦笑しながら、じゃ、もう行くね、と声をかける。

安心感のある奈霧に充分甘えた。曖昧な、名前をつけては壊れてしまいそうな、そんな関係が明乎はすきだった。

「ああ」

また背を向け、紙によくわからないことを書き付けてゆく。
「ご飯、ちゃんと食べなよー」


そう声をかけ、出て行こうとすると、またくるりと奈霧こちらを向き、にやり、笑っていった。

「あ、少しは寂しいから、早く帰ってこいよ」
「素直にいってよねー」

口調に、嬉しさが伝わらないように気を付けながら、そんな事を言った。

―…
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