天神楽の鳴き声

「すっごい、賑わいなんですねー」
「そおよー、周りの村の人たちも一斉に来るからねー。月二回の定期市は安いわ、新鮮だわ、普段手に入らないものが入るわですごいのよー」


朝早く彰綺に連れ出されたのは定期市だったらしく、雛生に答えてくれた彰綺の声も聞こえづらいほどお賑わいを見せている。
まだあの人混みの中に入ったわけでもないのにとてつもない疲弊感が雛生を襲う。


「さ、私は明日から食卓に並ぶ材料をもぎ取ってくるから、雛ちゃんはテキトーに見てていいわよー」

「え？荷物持ちぐらいはしますよ！」

「主婦の勢力範囲は初心者には手強いわよー、まあ、主婦じゃないけど。雛ちゃんはふらふらっと、素敵な細工のある店でも見に行ってらっしゃいな。絶対たのしいから。だって、北に来たのは初めてなんでしょう？楽しまなくちゃよ？あ、勿論終わったら、荷物持ちしてちょうだいねー…って、早くしないと売り切れちゃうわ！行ってくるわね！！」



勢いよく舌を噛むんではないかと思うくらい喋り終わったあと、颯爽と人混みに飛び込んで行く。華奢で落ち着いた美人な印象を受ける、もちろん黙っていればだが、彼女のやる気は底なしのようだ。
雛生は彰綺の言葉に甘え妙齢の女子ばかり集まる見世を覗いてみることにする。