天神楽の鳴き声
そういえば、彼はちゃんと元気だろうか。
近くにいれば、何も言っていないのに必要以上にくっついてくる人間がいないのは、なんだかおかしな感じだ。思えば、あの婚姻の儀から片時も離れることはなかったといっても過言ではないくらいには側にいた、いや、いてくれていた。

こんなことを考えていてはまるで自分が寂しいみたいだ。頭を振って、女子達が黄色い声をあげ、手にとって見ている、玉やら簪やらに目を向ける。彰綺のいうように細工がどれも素晴らしく、見惚れてしまう。

「可愛いお嬢さん、南の素晴らしい細工も仕入れたんだよ。見るかい?螺鈿細工がとてもいい出来でねえ…」

気の良さそうな店主は雛生が気になっているものを見せてくれる。雛生が目に止まったのは、簡素だが、丁寧さを感じる硝子細工が一つだけついた刀飾りだ。薄青の硝子に彫りが施してあり、見てみると蓮のような植物。


「ああ、それはこっちの、北の工芸品だ。このあたりじゃ、対して珍しくない代物だが、彫りが素晴らしい、あと、"カエリフズリ"で縁起物だ」

こういうのを、似合うのは、そう、例えば、
って、私は今何を考えようと!!

慌てて思考を止めようとするが、これくらい簡素だと邪魔にならないとか、薄い色は彼によく似合うな、とか、あのひょろ男には少し守りがあったっていいだとか、そんな考えが止まらない。
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