天神楽の鳴き声
雛生がひとりで百面相をしていると、店主はにやあとして、

「送る宛があるんだね?いいねえいいねえ」

「ち!違います!私は別にあの人のことなんか!どうなっても構わないし!」

「認めちゃいなよ、私も家内と付き合うとこまでいくのに苦労したクチでね、お互いあと一歩を踏み出せやしないんだ、こーゆうのに手を借りるっていうのも良い手だよ」


店主は聞いてもいないのに奥さんとの馴れ初めを喋っている。
付き合うっていうか、もう、夫婦なんですけど。
その言葉を呑み込んで、ていうか、と、自分に突っ込む、私のそういう相手が志臣であると確定したわけではないのに。

「今日ならこれを恋するお嬢ちゃんに半額だよ!さぁどうする?」
半額にしてくれるなら、自分の手持ち金で足りる。戦闘要員というわけではないからいつでも刀を持っているわけではないけれど、御守りにもなりそうなそれ。
上手く煽ってくる店主に雛生は思わず言う、

「買います」
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