天神楽の鳴き声
夜、しん、と冷え切る空気を雛生は吸い込む。明日は色決めなのか、と思うと気が重い。眠れず、色無しが集団で眠る大広間を抜け出し気付かれないように、外に出る。

空には星など見えず、曇っている。

まるで、あの日みたいだ、と雛生は思い出す。
宮に入ったばかりで辛くて、耐えられず外にあの日も飛び出した。
この戯曲だけは、褒められたっけ?と游先生に珍しく褒められた曲を口ずさんでいた。

高低差の激しい曲で、難しく、子が母を求め泣く詩だった。音域の広い雛生は苦しむことなくうたうことが出来る。
のびやかで、自由、そう評された雛生の歌声は天高く響く。

子が母を求める、
雛生にはない感情だった。大罪人の親を持ったおかげで村を歩けば、石を投げられるような暮らしを強いた親を、求める?

馬鹿らしい。そんなことを思って歌っているから、感情があなたにしては高ぶっている、と言われた。恋唄も歌えない。

游先生は、雛生を人間として、まだ未熟なのだと称した。欠けているものがなんなのか、わからない。胡兎のようにまわりを慈しむように出来たなら、立派なのだろうか。

「素晴らしいね…」
歌い終わったとき、と手を叩く音がして、振り向いた。
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