天神楽の鳴き声

廻る、

村へ彰綺と帰った頃、この村を仕切る里長のような人に呼ばれた。
「何か、あったかなー?」
「まあ、別段何もないと思うけどねー、厳しい決まりがあるわけではないし」

村の奥にある一番大きな邸に雛生は入る。呼ばれていない彰綺とは外でわかれた。


「ああ、来たのね、雛生さん、でしたっけ?」
「はい、雛生と申します」

奥の部屋に通された雛生は膝をつき、頭を垂れた。お香の匂い、鈴の音、この場所は銀様の邸にどこか似ていた。どういう話をされるのかはわからないが、大人しくしているのが一番だろう。

「顔を上げて頂戴?雛生さん、貴方に頭を下げられるのはとても可笑しいわ。貴方の位より私の位は下の筈だもの…違うかしら?朱巫女様?」

雛生は肩をぎくりと震わせた。顔を上げる。皺の刻まれた和やかな雰囲気の、どこにでも居そうなおばあさんだった。

「なんで、…私がわかるんです、か?」
「あら?あっさり認めちゃうのねぇ、朱巫女様ったら…。そおねー、私この辺りには結界を張ってるんだけどねー、貴方の情報がまったく読み取れなかったの、で、おかしいな、って思っていたら、現朱巫女の名を言うでしょう?…不思議な気も感じてたからね、ぴーんと来たのよ」

偽名名乗るぐらいの知恵なくちゃねぇ、だって貴方の力はとても貴いものなのだから、そう言ってまた笑った。

「私にそんな力ありません」
「あるのよ、貴方にはこの地を揺るがすような、大きな力」
「何も、守れたためしもない私が、ですか?」

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