天神楽の鳴き声
「自分の力は自分が一番信じてあげなさい。力を引き出すには、自分の得手とするもので呼び込むの。あなたは、素晴らしい方の子供なのだから」
「沚依様は、私の両親を知ってらっしゃるんですか?!私は!罪人の子じゃないんですか?」

はっとなって、沚依様に雛生は半ば強引に問い詰める。罪人の子だと罵られた、でも違うのだろうか。物心ついた時から親はいなかったし、育った村では当然のように無視されていた。歩けば石は必ず投げられた。

不意に流れる記憶があった。

記憶の中の優しい手がまだ小さな私の手をぎゅっと掴む。小さなわたしを抱きしめて、『意志を継いで、私が、あなたを守るから…』そう囁いた。

そう、物心ついた時からー…
雛生は一人だった、一人だった筈だ。じゃあ、この記憶の女性は誰なのだろう。

「記憶にあやふやな所が…あるんです…今の、今まで忘れてたんです…どういう…ことでしょう…」
「私が貴方に与えられるのは少ないの。…変容というものは簡単に起きる。だからこそ、その時その時の感覚を大切にしなきゃ駄目なのだと思います。それに、今、貴方に教えずとも、いずれわかってしまうことです」

おでこを、貸してください、下から小さな声をかけられた。鳴桂がちょいちょいと小さな手をこまねいていた。言われたとおり鳴桂の近くにおでこを持っていく。雛生のおでこに小さな小さな指がささった。ジワリと触れられた所が一瞬熱を放つ。

「ッー…」
「朱さまが力を使えない事はもうないと思います。だから、安心して自分を信じてあげてください。」

ぺこり、と鳴桂が頭を下げると、花が一瞬で彼女の周りを包み消えた。
いつのまにか、沚依様が前と同じ皺のある、優しげなおばあさんになっていた。沚依様は口に手を当て、何も言わずに笑った。


信じる、というのは、どういうことなのだろうか。

ー…
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