天神楽の鳴き声
男の人が立っていた。雛生より、幾分か年上だろう。

「あ、っと…」

髪を一つにまとめ、結っている。顔はよく見えない。寝着に布を引っ掛けただけの服装だった。

「おれ、初めて聴いたよ!!こんな綺麗な声…すごいね」

すごい、とため息を洩らすように言った。こんなに褒められたのは初めてで、どんな顔をしていいか分からず、口の中をもごもごする。

「綺麗ですか…?」
「うん、とっても」

その言葉になぜか涙が溢れる。嗚咽をこらえていると、息苦しくなって、咳をする。

「え、え?ど、どうし…」


罪人はこの宮に入ることなど赦されない、子も然り。なのに何故か門を通れてしまった。
大罪人の娘が綺麗な歌など歌えるものかと、蔑む声を聞く度、雛生は泣きそうになった。でも、泣きそうになる度負けるのは嫌だと、意地になって泣けなかった。石を投げられることはなくなっても指を指されるのは変わらない。その事は胡兎に言う事をも出来なかった。

「ごめんなさい、私」
次の瞬間、抱き締められた。体温を感じて、体を強張らせる。

「母上が昔、泣いてしまった時、こんな風にだきしめてくれたんだ。…安心するかなって…あ、嫌だったら突き飛ばし…」
「このままで…いいですか?」

親友にすら、出来なかったことを見ず知らずの人に甘えた。その後のことは覚えていない。
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