恋衣 ~呉服屋さんに恋して~
月に浮かびあがる引き締まった裸体に目を奪われ、気持ちの高揚に拍車がかかる。十夜さんは四角い袋を噛み切ると、屹立した自身に薄いゴムを被せた。
初めての光景に緊張と興奮で高鳴る胸を押さえながら十夜さんを見つめていると目が合った。
「そんなに見つめられると……加減ができなくなりそうだ」
クスリと笑うとキスをしてくれる。そして昂ぶった十夜さんの中心を濡れたそこへあてがった。
「凛子さん、ずっと……こうしたかった」
想像よりも質量があるそれは、すぐには中へ入ってこず、ゆるゆると円を描くように花芽を擦り上げる。
指より熱く、舌より硬いそれに擦り上げられると、艶めかしい吐息が洩れた。
グッと腰を動かされると、ピリリとした痛みを感じた。
「凛子さん……ゆっくり」
「ぁふ……ん……と、やさん……っ」
十夜さんに口付けられ、舌を絡め取られる。意識がそれに集中していると、熱く滾ったものが浅く挿し込まれたのがわかった。
「凛子さん……愛してる」
「ふぁ……っん……!」
耳元で低く囁くと腰を穿ち、私の中に入ってきた。身体が裂かれそうな痛みを感じるが、それはすぐに過ぎ去り、熱いもので溢れてくる。
「あっ、んんっ……」
十夜さんのものが蜜襞を擦り上げて奥へと進んでいく。下腹部の圧迫感が彼の興奮と質量を伝えてくる。胸が詰まりそう。
「はぁ……ん、とうやさん……っ」
息を吐きだすと甘い喘ぎになった。
「りんこ、さん……貴女の中は……すごく、あたたかい……っ」
十夜さんは気遣うような笑みを浮かべると、額から汗を落とした。それさえも刺激になり、私の身体を痺れさせるには充分だった。
「僕のものを……締め付けて、きますね……はぁ……っ」
「ァッ……ぅぁ……ん」
苦しそうに息を吐き、十夜さんはゆっくりと腰を動かした。濡れた秘部に打ちつけられ、水音と嬌声に鼓膜が震える。
秘部はみっちりと塞がれているはずなのに、彼が腰を動かす度に、中から収まりきらなくなった蜜が溢れ出てシーツを濡らした。
「まだまだ、溢れてきそうっ、ですね」
十夜さんは荒い息を漏らしながら、中を確かめるようにゆっくりと抜き差しを繰り返す。
指で触られた感じる部分を何度も擦り上げられ、腰から痺れが突き抜ける。肩口が震え、蜜襞がうねるように彼に絡み付いた。
「凛子さん……大丈夫、ですか?」
「ん……きもち、いいっ……です」
私はシーツを握りしめていた。それは痛みを堪えるためではなく、どうしようもなく迫り上がってくる快感を逃がすため。
「僕も、気持ちいいっ」
十夜さんがより深く腰を穿つ。肌を打つ音が聞こえ、奥を突いてきた。
「あぁッ、あっ」
ぎりぎりまで引き抜かれたと思うと、また最奥まで貫いてくる。その度に私は大きく体を仰け反らせた。
揺れる視界で十夜さんを見ると、薄暗い中でも紅潮しているように見えた。長めの黒髪がゆらゆらと乱れ、汗が色香を孕みながら流れている。
「と、やさ……んっ」
より十夜さんを感じたくて彼の背中に腕を回した。十夜さんは私の額に口付けると、汗で張り付いた髪を掻き上げてくれる。
「凛子さん……可愛い……っ」
穿つ腰の速度が上がった気がする。絶えず与えられている刺激に、私の中は震えだしていた。
「イっ……」
「イキそう、ですかっ」
「ん、んっ……」
返事ができず、達するのをこらえるように目を瞑りながらわずかに頷く。
十夜さんもまた、その時が近いのか息が荒くなり、打ちつける動きが速くなった。
「り、んこさ……目、開けて」
「とっ、十夜……さんっ」
すぐ近くに、遠いと思っていた十夜さんを感じる。繋がったところでは熱く、先ほどよりも一層大きく膨張した彼を感じた。
「ずっと、こうしていたいですが……そろそろ、限界だ……はぁっ……」
「ぁっ……私も、もうっ……」
「これからも……ずっと、一緒にっ……くっ……」
荒い息の合間に紡がれる言葉。私の目尻からは涙が零れた。
「――ぁっ……!」
私の中は収縮と痙攣を繰り返し、身体の奥から蜜がどっと溢れる。電流が突き抜けたかのように全身がビクビクと痺れた。
「もう、絶対……離さないっ……」
白む思考の中、十夜さんのものを強く締めつける。彼もまた絶頂を迎え、滾る自身の熱を薄いゴムの中へと解き放った。
* * *
「ん……」
朝、縁側から差し込む朝日で目が覚めた。
見慣れない風景に目を細めながら、私は寝転んだまま様子を窺う。
横に温かな体温を感じて、そっと顔を動かすと端正な顔をした十夜さんがいた。
よく見ると、薄い布団をかぶってはいるが裸だった。まさか、と思い自分の体を確認すると直接素肌に触れた。
「そういえば昨日……」
昨夜のことを思い出し、頬が火照った。その熱を覚ますように頬に手を当てる。
「……んっ。凛子、さん?」
「十夜さん! ご、ごめんなさ、」
起こしてしまった。
謝るために上半身を起こそうとしたら、十夜さんにぐっと引き寄せられ、また腕の中に収まってしまった。
「身体は……大丈夫ですか?」
「えっと……はい」
昨日の姿が頭に過り、恥ずかしくなって小さく呟く。すると十夜さんはふにゃりと力が抜けたような笑みを浮かべた。
「良かった、夢じゃなかった」
「え?」
「貴女を抱いたこと。夢じゃなかった」
「……十夜さん」
嬉しそうに言葉を零すと、また目を閉じて眠りについた。
すぐ側で静かな寝息が聞こえてくる。
どこからか風が舞い込んで来て、私と十夜さんの髪をそっと撫でていく。
少し、秋の気配を帯びた風に私もゆっくりと目蓋を閉じた。
幸せでまどろむ思考の中、いつまでもこうして十夜さんの側にいたいと願った。
秋は十五夜、冬は初詣、春はお花見……たくさんの季節を十夜さんの隣で感じられたら、とても幸せだろう。
温かな気持ちに包まれる毎日を、貴方の腕の中で過ごしたい……いつも、いつまでも。
※本編完結。
次ページより番外編です。