恋衣 ~呉服屋さんに恋して~
* * *
駅前の商店街へは自宅から水色のバスに乗って三十分。
駅近くにある職場へ働きに出ているので、仕事の時も同じバスを利用している。
だけど、今日は気分が違う。
いつもなら眠気の残る頭を項垂れて、ガタガタと揺られるだけだが、今日は鼓動が忙しなく脈打っている。落ち着かない。そわそわする。
気分は違っても車窓から見える景色は変わらなくて、駅が近づくにつれ、私の胸は高鳴りを増していった。
「ホント、ここの商店街ってちょっと寂れてるよね」
駅のバスステーションで降り、そこから歩いて五分もかからないところに商店街がある。
私達は閑散とした商店街の入り口で立ち止まり、その様子を眺めていた。
「閉店してるお店もあるからね……」
肩を竦める裕子に、私も同調するように苦笑した。
それでも、もう一度商店街に活気を取り戻そうと、市の団体が動き始めているらしい。以前より居酒屋等の飲食店が増えた。
しかし、夜なら飲み会等で多少は賑わうのかもしれないが、日曜の昼間は母が言った通りお年寄りばかりだ。
商店街にかかったカラフルなアーケードの下を、裕子と二人で歩いていると少し目立つくらい。
「お姉ちゃん、お店の場所覚えてる? 商店街の突き当りは右? 左?」
「ど……どうだったかな」
なんとなく、まだ勇気が出なくてとぼけてしまう。本当は、頭の中ではしっかりと順路が描かれているというのに。