恋萌え~クールな彼に愛されて~
そんな状況になっても当の梨花は特に困る風でもなく
それを口実にフロアにやって来たにわか知り合い達に
にこやかに手を振った。
彼女たちが仕事の邪魔にならない場所から
大人しく憧れの彼の姿を眺めているだけなら構わない。
そういう気持ちは自分にも分かる。
もし立場が違えば自分だって誰かをダシにして
こっそり彼の姿を拝みに来たかもしれないのだから。
持ちつ持たれつお互い様。
自分の名前が人の役に立てたのなら幸いだとくらいにしか
思っていなかった。
でもそれが徐々にエスカレートして、結果的に塚本や周りに
迷惑をかけてしまう事にならなければいいと
梨花はただそれだけを願っていた。
しかし、そんな不安が思いもよらない所で現実となった。
同じフロアの別セクションに所属する女性社員が
仕事もそこそこに、あからさまに塚本に媚を売るようになった。
彼目当てのギャラリーが増えたのが
彼女を煽ったのかもしれない。
そんな彼女を、塚本はその場で
「迷惑だ」と厳しく一喝した。
彼女は梨花のにわか知り合いではなかった。
例えていうなら一匹狼、だろうか。
学生時代、ミスキャンパスになったのを足がかりに
雑誌の読者モデルとしてそこそこ活躍していたらしい。
そのご自慢のルックスと魅惑の微笑みを武器に猛攻を仕掛けるも
残念ながら塚本にはまるで効かっなかったようだ。
恋した相手を落すには、まず相手をよく知ること。
兵法の基本と同じだと、いつか親友の華子が自慢げに
自分にレクチャーしたことを梨花は思い出した。
塚本はオンとオフをきっちり分ける典型的なタイプだ。
仕事中にあからさまなアプローチをされるのは好まないはず。
彼女もその辺を踏まえて攻めていれば
あれだけの美貌とスタイルだ。
塚本だって満更ではなかったかもしれないと思う反面
塚本が彼女に堕ちなかった事でどこかほっとしている自分に
梨花は戸惑いと例えようのない胸騒ぎを感じていた。