恋萌え~クールな彼に愛されて~
「クニの会社の方なんですってね?」
「ええ」
「いいところに来てくださったわあ。
今ちょうどランチをどうしようかって話をしてたところなの。
近くのコンビニへ買出しに行くか、それとも食べに出ようかって」


いっそ出ててくれればよかったのに…と
思っただけのつもりが、つい声に出ていたのか
「え?!なに?」と彼女に訊かれて焦った梨花は
「いえ!何でもないです」と慌てて手を振った。


「でも本当に良かった。私が何か適当に作ればよかったんだけど
食材がなーんにもないから作りようがなくて。
買いに行けばいいんだけど……
あいにくこの後、人に会う約束があるのよね、私。
だからそんなに時間もなくて」

「はあ…」

「気が利く同僚サンがいて良かったわ。
クニったら日本人なのにNYで採用されたりしてるでしょう?
日本に戻ってきて いじめられてるんじゃないかと心配してたの」

「いじめだなんて!そんな事はありません」


何と的外れな心配をするものか、と梨花は半ば呆れてしまった。
有能さだけでなく、厳しさでも名を売る塚本を苛められる人は
おそらく社内には居ないだろう。


「そう?なら良かった。仲良くしてやってね」


お願いします、と小さく頭を下げ、楽しそうに笑う彼女の
爽やかな笑顔も態度も好印象でしかないのに
梨花はひどく不愉快だった。
たとえ従妹であったとしても
男の子みたいな女の子であったとしても
こんな風に塚本の部屋に馴染んで寛いで
親密な鷹揚さを見せられるのはいい気はしない。
「何かイヤ」という言葉はこういう時に使うものなのだろうと思いながら
先導する彼女の後について入ったリビングは
昨日片付ける前に戻ったのかと思うほど
また箱が山積みになっていた。


梨花は思わず うわ、と小さく声を上げた。

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