恋萌え~クールな彼に愛されて~
「ちょっと!クニ!女性のお客さんの前でその格好はないでしょう?」
「ああ…急いでいたから着替えのシャツを持っていくのを忘れたんだ」
すまない、と私に小さく手を上げて隣室へ消えた塚本を追う様に
「しようがないわね…もう」と苦笑した彼女も
ごめんなさいね、と私に言い置いて隣室へと消えた。
まるで無頓着な夫と、それを気遣う妻を思わせる自然な二人の様子に
ぽつんと取り残された梨花は嫌と言うほど居心地の悪さを味わった。
何が私の恋人に、よ……
ちゃんと居るんじゃない。
こんな風に甲斐甲斐しく世話してくれる人が。
…嘘つき!
梨花は期待して浮かれ気分で押しかけてきた自分が
酷く無様で滑稽に思えてきた。
自虐も極まるとそれがどうした!と開き直ることがある。
いわゆる逆ギレというやつだ。まさに梨花がそうならんとした時
シャツを羽織った塚本が戻ってきた。
「悪かったな。待たせてしまって」
「いえ…悪かったのは私の方。ごめんなさい。お邪魔だったわね」
腹立たしさに悔しいような悲しいような気持ちが混ざって
つい言動が刺々しくなってしまった梨花は
それが良くない事だと解っていても抑える事ができなかった。
「別に邪魔じゃないぞ?」
「お気遣いは結構です」
「気など遣っていない」
「帰ります」
「おい!」
梨花が立ち上がったところで、装いを替えた例の彼女が
バッグを片手に隣室から戻ってきた。