恋萌え~クールな彼に愛されて~
「ちょっとクニ!お客さんの前で何 大きな声出してるの?」
「あ… いや、別に何でもない」
「本当?」と梨花へと向けられた彼女の確かめるような視線に
「ええ、別に何も」と答えた梨花は
口元だけでを作った強張った笑みを彼女へと返した。
「じゃあ、私行くから。悪いけど
私の荷物はもうしばらく預かってくれる?お願い」
「ああ。構わない」
「サンキュv」
そう言い終わるか終わらないかのタイミングで
ふわり、と彼女の腕が塚本の首に回された。
その背伸びをする彼女の背を支えるかのように
塚本の腕がごく自然に彼女の身体に回されて
緩く抱き合う二人は頬と頬を寄せ合った。
その光景から思わず目を逸らした梨花の
どきん、と大きく跳ねた鼓動は
鈍い痛みとなってその胸を衝いた。
こんな風に男女がハグしあうのは国が変われば挨拶である事を
梨花が思い出すのはもう少し後だった。
重苦しい複雑な思いのまま、呆然と立ちつくす梨花を
塚本の腕の中の彼女の視線が捕らえた。
「ええっと…?」
彼女の視線がまた塚本へと戻ると、その視線だけで塚本は
彼女の言わんとすることが分かったのだろう。
彼は小さく頷いて答えた。
「綾瀬君だ」
「名前は?」
「梨花君」
「梨花さん、どうぞごゆっくり」
「…どうも」
小さく会釈した梨花に彼女はにっこりと笑うと
もう一度塚本へと向き直り、微笑みながら小さく頷いた。
それを受けて塚本も微笑み頷いて、二人は身体を離した。
そして彼女は「チャオ」と手を上げて颯爽と悠然と出て行った。