恋萌え~クールな彼に愛されて~
この時の梨花の胸中は、もう「何かイヤ」などという
曖昧なレベルではなくなっていた。
この場にいる事自体が嫌だった。でも今すぐここを出て行けば
エレベータホールで彼女に追いついてしまう。
そう思うとすぐに動く事ができなかった。
そんな梨花に塚本が声をかけた。
「座らないか」
「いえ…」
「綾瀬君」
そう言って距離を詰めた塚本に不意に手を取られた梨花は
驚いてその手を思い切り振り払らった。
「あっ… ごめんなさい。失礼します!」
そう叫んで、駆け出さんばかりの勢いで
部屋を出ようとした梨花の前に塚本が一瞬早く回り込み
梨花の行く手を阻んだ。
「通してください」
「待ってくれ」
「帰りたいの」
「来たばかりなのに?」
「差し入れに来ただけだから用は済んだわ」
「綾瀬君」
「退いてください」
塚本の横の僅かな隙間をすり抜けて行こうとした梨花の腕を
強い力が掴んだ。
「放して!」
「待っ…」
「嫌!あの人を抱いた手で私に触らないで!」
一瞬の静寂の後、梨花の腕を掴んでいた力が緩んだ。
その隙に逃げるようにして梨花は塚本の部屋を飛び出した。