恋萌え~クールな彼に愛されて~

「行き倒れていたんだ」
「は?」
「大学の最後の年だった。道端で行き倒れていた彼女を助けたんだ」


エレベーターを出て、梨花は塚本とともに部屋へ戻った。


塚本は梨花をダイニングの椅子に座らせると
自分で入れたお茶を梨花にすすめるまで
物思いに耽っているのか、考え事をしているのか
ずっと黙ったままだった。
その塚本が話をし始めたのは、淹れ立ての紅茶の香りのよさと
柔らかな湯気に包まれて、梨花の刺々しい気持ちが
幾分まろやかになった頃だった。


「行き倒れ?」
「ああ。助けたというよりも、拾ったと言う方が合ってるかもしれない。
あの時の茶々は腹を空かせた捨て猫みたいだったからな」
「お腹が空いて、それで倒れていたの?!女の子なのに?!」
「俺もまさか女性だとは思わなかったけどな」


そう言って苦笑いした塚本は話を続けた。


彼女の名前は朝居茶々。
茶々という名前は、かの太閤秀吉の愛妾・淀君の幼名から
取ったものだという。
漢字は違えど姓の読みが同じだった事で
それにあやかり父親が命名した、と聞かされて育ちはしたものの
実のところは父親が何となくシャレてみただけなのよ、と
茶々本人は呆れていたらしい。


しかし その名前をそのまま仕事用の名前として使うあたり
実は彼女も気に入っているのだろうと塚本は笑った。


「仕事用の名前?」
「彼女は絵描きなんだ。CHACHAという名で商業用の挿絵やイラスト、建物の内外装のデザインや壁画のようなものまで手がけている」


塚本がNYで彼女に出会った時は、その修行中で
リュック一つで世界中を放浪しながら絵を描いていたという。

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