恋萌え~クールな彼に愛されて~
第七章 ~猫が女に変わるとき~
時が経ち、飼い主に慣れると側に寄ってくる猫のように
茶々がロフトから降りてきて
リビングで寛ぐ塚本の傍らで過すようになったのは
居候を始めてからしばらく経った頃からだった。
「描くこと」に情熱を注ぎ自分の世界と感性を大事にする茶々は
他人に干渉する事も、される事も好まず、振る舞いも口調も穏やかだった。
そんな彼女は塚本にとって少しも煩わしいものではなく
むしろ異国での暮らしの癒しでもあった。
休日の昼下りに塚本の足元に座り込み、その膝に頭を持たせ掛けて
本を見たり落書きをしていたりする茶々の小さな欠伸に気付くと
塚本は決まって頭を何度か撫でてやった。
そうするとそのまま寝入ってしまう。
「本当に猫のようだった……」
そう懐かしそうに目を細めて語る塚本とは逆に
梨花の表情はますます硬くなった。
「本当に それだけ?」
無意識に出た言葉だった。
言った直後に それが何を意味するのか、自分が何を言ったのかに
すぐ気付いた梨花は慌てて顔を背けた。
「どういう意味だ?」
「いえ……その…いいの。違うの。何でもないの」
「何か気になることがあるなら言ってくれ」
「大丈夫。気になることなんてないから」
「嘘だな」
「嘘じゃない」
「じゃあ どうして俺の顔を見ない?」
見ていなくてもわかった。
真っ直ぐな塚本の視線が自分に向けられているのが。
梨花はその視線を痛いほど感じて唇を噛んだ。