恋萌え~クールな彼に愛されて~
自分が想いを寄せる相手が他の女性を抱いたという事実を
その本人から聞かされるというのは
こんなにも切ない事だったのだと梨花は実感した。痛いほどに。
考えたくないのに考えてしまう。想像したくないのに想像してしまう。
その指先はどんな風に彼女の肌を撫でたのだろうか。
その唇はどんな風に彼女の唇を食み
彼女の名前を呼んだのだろうか。
その胸は その腕は どんな風に彼女を抱きしめたのだろうか、と。
イヤ もうやめて!
重く濁った思いが渦巻くように梨花の胸を塞いでいく。
身体を堅くしてうつむいた梨花の脳裏に浮かんだのは
『好きになった男の過去の話など聞くものではない』と言った
華子の青い顔だった。
彼女の言う通りだったと心底悔やんでももう遅かった。
塚本はどうして黙っていてくれなかったのだろうか。
嘘でもいい。そういう事は無かったと
何故言ってくれなかったのだろう。
嘘も生涯つき通してくれれば それが本当になる。
嘘も方便というではないか。
聡い貴方が知らないわけではないでしょうに、と
梨花は訊いたのは自分だという事を棚に上げて
塚本を責めたい気持ちになった。
誠意も正直も、時には刃となって突き刺さる残酷さを秘めているのだと
梨花は思った。