恋萌え~クールな彼に愛されて~
第三章 ~誘惑と告白~
どうぞ、と開けられたドアの先は
予想外にこじんまりとした殺風景な部屋だった。
何しろ塚本はNY帰りのパワーエリートだ。
落ち着かないほど広々とした部屋で
優雅に寛ぐ姿を想像していた梨花は拍子抜けしてしまった。
そう正直に話すと塚本は
「俺は一介のサラリーマンだぞ?何か誤解してないか?」と
苦く笑いながら窓を開け、言葉を続けた。
都内に実家があるという塚本にしてみれば
ここは仮の住まい。通勤の利便性と
仕事の状況によっては出勤や退勤が
不規則な時間帯になった場合、家族が自分を気使うことも
また自分が家族に気を使うことも無いようにと
この部屋を借りたという。
文字通り「寝に帰る」だけの部屋だから
必要最小限の物と部屋数があればいいという
塚本の言葉通り、10畳ほどの部屋と
5畳ほどの納戸にLDKという間取りの
シンプル過ぎるほどの設えは彼らしいと言えば彼らしいが
何と言っても男性の一人暮らしの部屋だ。
弁当の器やペットボトル、ビール缶の類が
その辺に転がっていてもおかしくないのに
まるで見当たらない。生活感のない部屋だなと思いつつも
散らかった部屋で暮す塚本というのも想像ができない。
きれいに片付いているのがしっくりくる、と梨花は納得した。
その変わりに山積みになっている形の揃ったダンボール箱。
そのほとんどが未開封のままだった。
それが一層生活感の無さを煽る。
こんなところと言っては失礼だけど・・・
此処で塚本が寝起きしているのかと思うと
梨花は他人事ながら侘しさを感じずにはいられなかった。
「一人ではとても片付ける気にならないのも分かるけど・・・」
「だろう?」
「こんな倉庫みたいな部屋じゃ何だか落ち着かないわ」
「・・・そうなんだ」
箱をトントンと叩きながら困ったように笑った塚本に
梨花は胸の奥が小さく疼いたのには気付かないふりをして
「さあ、始めますか」とジャケットを脱いで袖をまくった。