色鉛筆*百合短編集
孤高の優等生
「私は誰とも仲良くする気は無いの、近寄らないで」
染めた気配の欠片も無い真っ黒なおかっぱ頭に、レンズの分厚い赤ブチ眼鏡。
微塵も着崩されていない制服に、白いハイソックス。
勿論Yシャツだって第一ボタンまで止まってるし、ネクタイもぴっちり締まってる。
典型的な優等生スタイルで、休み時間はずっと参考書等の本を読んでいると言う…行動だって優等生。
そんなクラスメイト、岡崎光子。
彼女とのファーストコンタクトは、大失敗に終わった。
‐‐――
告白しよう。
私は今、虐められている。
虐めの主犯曰く、私は『調子乗ってんじゃねーよ、てめぇ』だそうです。
「………靴無い」
空っぽになった下駄箱を見て、深く溜息を付く。
この間はごみ箱から見付かったし、その前は女子トイレの便器に突っ込まれていた。
捨てなくて済むような置かれ方をしてれば良いな…と思いながら、取り敢えずスリッパを借りに職員用玄関に向かう。
と、その途中で岡崎さんを発見した。
「おはよう」
岡崎さんは私を一瞥、そして無視。やっぱり。
まぁ……分かってはいるんだ。
虐められてる子と、関わりたい筈が無いのは。
私には今、虐めのせいで友達が居ない。
それだと色々面倒かなと思って、いつも1人で居る岡崎さんに目を付けたんだけど。
当たり前だね、迷惑なの。
下手したらとばっちり喰らう訳だし。
そう。頭では分かってるんだけど……何故か諦めが付かない。
「日直の仕事?手伝うよ!」
「必要無いわ」
ばっさり切り捨てられた。
それでもめげない。
「けど重そうじゃん、ほら!」
彼女の持つ…先週提出した全員分の数学のノートを、無理矢理奪おうとする。
後は、予想の出来ることだった。
その勢いでノートは床に落ちて、バサバサと言う音と共に散らばって行く。
「ごめん…」
小さく謝ってみるものの、岡崎さんの目は鬼のように鋭かった。
「何なのよ貴女!近寄るなって言ったでしょう!?」
声を荒げながら、ノートを掻き集める彼女を手伝おうと手を伸ばすも……振り払われる。
「触らないでよ!!」
全身を震わせて、私を拒絶する。
何かに怯えているようなその態度に、思い付いてしまった。
「岡崎さん……って、もしかして、昔虐められてた?」
乾いた音が耳に響いた瞬間、頬を痛む。
叩かれたと理解するのに、数秒。
その行動と涙に、図星だったんだと分かった。
「最っ低!!」
ノートもそっちのけで走り去る彼女を見て、放心状態にありながらも口元が吊り上がる。
何に対しても冷めた態度で、誰にも興味が無さそうな岡崎さん。
そんな彼女が…私を睨んで、私の言葉に怒って、傷付いて、泣いた。
たったそれだけなのに、溜まらなく優越感。
これが歪んだ独占欲で、恋心だと気付くのは……もう少し先の話。
END..