狼と銀の鳥籠姫
プロローグ
孤独な狼と籠の塔は静寂に物語の幕を告げた。
雨と呼ぶには細かすぎる。
霧のような雨がさらさらと降りしきる。
霧は世界を覆う。
まるで世界の悲しさと不条理を隠すかのように。
「……。……こっちか」
雨に隠れ、艶やかに煌めく森の中、一人の青年が木陰に佇んでいた。
雨を厭うように、人目を避けるかのように。
目深く(顔を隠すくらい深く)被ったフードの下から、
サファイアのように濃く、何処までも鮮やかなアズライトの隻眼が覗く。
薄暗い霧の中ですべてが灰色に沈む中、アズライトの瞳だけが輝いている。
「……あそこに、……いるのか?」
彼が見つめる先、張り巡らされた枝葉の向こうにあるのは、曇天空の中立つ高い高い塔だ。
何を守り、何を隠しているのか。
「…………。……カーティス、クロード。…………殺す」
細かい雨粒に濡れた葉が服に当たるのも厭わず、青年は踵を返す。
さらさらと雨が降る、
霧のような細かい雨が落ちる、ある雨の日。
物語は静寂に幕を開けていく。