ALONES
始まりの街
さほど広くない海岸に、悲鳴にも似た声が上がったのは数分前。
陸に上陸…というよりは、打ち上げられたにほぼ等しい形で、僕らは砂浜に埋まるようにして転がっていた。
勿論、舟は大破。
元々木製の脆い舟だったから、仕方がないとはいえ。
たった今、目前で起こった出来事が一体なんだったのか、まだ整理できていない。
「ふふふっ、楽しかった!」
キーラは砂まみれの顔で僕を見る。
「――何が?」
…この状況の何が楽しいというのか。
同じく砂まみれで体を起こすと、キーラは「馬鹿ね!」と軽く僕を叱りつけ、まるで夢物語を語るように両手を組んだ。
「私たち、“イルカさん”に運んで貰えたのよ!とっても光栄な事だわ、それに滅多にない事なんだから!」
「“イルカサン”…?あの変なヒレの付いた黒くて大きな魚の事?」
「厳密には魚ではないけど、まあそんな所ね。」
嬉しそうに微笑むキーラ。
僕は思わず視線を逸らし、頭をかいて…ため息を吐く。
——調子、狂うなぁ。
笑う彼女を見ると、なんでも許してしまう自分がいる。
甘いのかな、それとも…どうしようもなく君の事が好きだから?
どちらにせよ、いつしか砂浜に頭から突っ込んだという不快感さえ気にならなくなって…
砂まみれのまま、暫く僕たちは笑っていた。