ALONES


「なにこれ…。」



今だかつてない程に大きく息を吐き、肩を落とす彼女。


ここはロレンツェ公国の北に位置する、首都から遠く離れた小さな街…マルマーナの街外れ。

勿論ここには観光名所なんてものは殆どなく、綺麗な水も無ければ、美しい街並みもない。
それどころか、汚い下水路にはネズミが這い回り、薄汚れた壁の住宅が、ダラダラと軒を連ねている。

街の中央にある質素な教会の付近が少し栄えている程度で、他に目立った特徴も無く…

明らかに服装の質が違うため、僕らは完全に「貴族が何しに来たコノヤロウ。」的な目で見られていた。


とはいえ、オルフィリアで言えば割と質素な格好をしているつもりだったが…。



「…なによあいつ、私を睨んできたわ。」


キーッと歯をむき出し「やっぱり人間なんて大嫌いよ!」と威嚇するキーラを宥めて、僕は眉をひそめた。



それにしても、正直酷い有様だ。


鼻を付くような異臭に、真昼間から客を誘惑する娼婦たち。

男たちは道端で酒を飲み、子どもたちが裸足で駆け回る。




「ちょっと…。」



思わず、だろう。

キーラがぼそりと呟いた。


そんな時。

突然頭上から何やら叫び声が聞こえ、道端に立ち並ぶ家を見上げる。

淡い赤色の外壁が目立つ家の、2階の窓。
そこからタライを持ち、半分身を乗り出した男が発したものらしい。


どこかで聞いた事ある叫び声だな…と考えていると、
付近を通りかかった男が僕らのすぐ側を足早く立ち去りながら、こう言った。



「おい、ボケッとしてると糞まみれになるぞ。」

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